渓の童子

2006 釣行記

平成18年4月08日 高津川水系

NO4 仄暗い淵の底から

いつもの時間に高速に乗った。

まだ、どこに行くのかは決めていないが、漠然と大場所を思い浮かべていた。

高速を降り、峠を越えると釣り服に着替えようと林道に入った。

車のドアを開けると外の空気は冷たく木々を揺らしていた。

風が強い。収まるまで谷を散策しよ。

車を停めた林道沿いの支流に入ってみた。

しかし、まったくお魚の気配が感じられず、50m歩いただけであきらめた。

入渓点のすぐ下に堰堤がある。過去、ここに裏切られた事はない。

いつもの脱出経路から降りていったが、団体さんで踏み荒らした様な形跡がある。

秘密のポイントでも何でも無くなったようだ。

堰堤下の様子が変っている、複数のゴギ君が顔を見せてくれるポイントの筈だが、お魚が潜むべき場所は極端に狭まっている。どうも、プールを形成するのに必要な渕尻にあるべき石が流され浅くなってしまったようだ。

魚影も見ぬまま、岩壁に取り付こうとさっき降りて来た場所に移動した。

この一段下には小滝があり、『いかにも』といったポイントなのだが、ただの一匹も釣った事は無かった。

上から覗くと驚いた事にプールは二倍ほどの面積になっていた。イケるかも。

ものは試しと小滝の上から『深場直接』みたいな名のシンキングミノーを投げて見た。

流芯から少し外したミノーは深く潜航しながら左の岩場の水面下のえぐれに潜り込み、ゆっくりと足元のえぐれに移動してきた。つまり左側のえぐれをくまなく探索してきて、滝壷の脇の仄暗い底を調査中なのである。ぬしが釣れそうな予感がした。

えぐれの最深部を這いずるミノーが程よい姿勢を保つように緩やかな張りと小さなアクションを演出していた。(つもりである。)

『ガツン!』

「ぬぬぬ、ぬしか?」その場グネグネの後、強引に水面を割り、そのままリールを巻いて水を切ったが、まだ張り出した岩に隠れて魚体は見えない。休む事無くゴリゴリとハンドルを回し、手元まで手繰り寄せネットに収めた。

「お前がぬしなのか??」

ぬしぢゃあないよね?

先程、感じた重量感はミノーの異様にデカイリップのせいらしい。

肉付きのいい24cmのゴギ君でした。

本物のぬしを探しに再び『深場直接』を向かわせたが、結果を出したミノーのロストが怖くなって、適当に切り上げる。

この手を使えそうなポイントをいくつか思い描いていた。

頃合を見計らって、ぬし釣りに行こう。

ヤマメにも出逢えた

その後、別の支流に移動し林道を徒歩で登りながら、良さげなポイントを叩いて行ったが、最大のポイントで1匹を捕らえるに留まった。

小さいが天然の匂いがするヤマメなのでいいんだよ。

と、自分に言い聞かせる童子であった。

椿も終わりだね

昼食の後、滝を探しに行った。

源流部に突入寸前に釣りを終えた二人の釣り師に遭遇、退散せざるを得なくなった。

小さな支々流を登るが面白くない渓相に泣きたくなった。

しかし、色鮮やかなゴギがいた。

反転するオレンジの魚体を見て、絶対に釣ってやる。ぜったいのぜったいなのだぁ。

と執拗に攻めて見事フッキング。だぁ〜〜、だぁ〜〜。

抜き上げ、背中のネット取るとスプーンの下に差し出した。

・・・あれ?おさかなは?

頬につたうのは涙?。尻尾を捲いて退散ぢゃ。

しゅーりょー。日没まで時間を残していたが、気力は残っていなかった・・・。無念。

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